#Acceptability





「オレは、センセイのこと好きだ」

 楽太はその言葉とキスを繰り返しながら、考えた。どうしたらセンセイが自分の気持ちをわかってくれるのだろう、と。

「・・・センセイ、もしさ」

 楽太はふと思いついて、武流を正面から見て言った。

「もしオレがセンセイのことちゃんと抱けたら、信じてくれる?」

 楽太のそのセリフに、武流は意味がわからないというように眉をひそめた。

「だから、オレがセンセイを抱けたら・・・センセイとセックス出来たら、オレがセンセイに恋愛感情持ってるって信じてくれる?」

 真剣に言う楽太に、武流はしばらく絶句していたが、なんとか声を出す。

「何を・・・言ってるんだ」

「だって!」

 冗談はよせと言おうとした武流を、楽太は叫ぶようにさえぎった。

「だってわかんないんだもん! 他にどうやったら伝わるのか! オレはセンセイが好きだって、言葉で言ってわかってくれないんだったら、他にどうやって・・・っ」

 武流に掴みかかるように言う楽太は、途中で言葉を途切れさせた。歯を食いしばる。そうしないと、こみ上げてくるものを抑えられそうになかったから。

 苛立ちとか悔しさとか、好きだって気持ちとか情欲とか、そんなのが全部一緒になって楽太の中で渦巻いていた。

 こらえ切れない涙が、一筋楽太の頬をつたう。

 しかしそれでも楽太は武流から目を逸らさなかった。

 その目に真正面から見つめられた武流は、一瞬迷うように目を泳がせ、そして掠れた声を出す。

「・・・なら」

 武流はゆっくり腕を上げて、躊躇いがちに楽太の涙を拭った。

「出来るんなら、やってみろよ」

 その手をそのまま耳から襟足へと添わせる武流の動きは、楽太にはまるで誘っているように見えた。楽太はゴクリと喉を鳴らす。

「・・・どうせ無理だって思ってんだろ」

「だから、それを証明してみせるんだろう?」

 まるで挑発するようなことを言うその口に、楽太は自分のそれを合わせた。

「やっぱりあんなこと言うんじゃなかったって後悔しても、知らないよ?」

「しないよ」

 途中でとまるなんて出来ないぞと言う楽太に、武流は短くしかしハッキリと答える。

 楽太は開かれた武流の口に、自身の舌を入れた。歯列を舐め、舌を絡ませる。そんな楽太の動きに、武流は拒絶するでもなく受け入れるわけでもなく、ただされるがままにしていた。

 楽太には武流の心が全く見えなかった。どうしてこんなことを自分にさせるのかも、もし自分の想いが本物だとわかったらどうするのかも。

 しかし、もう楽太はとまれなかった。目の前にある体が、ただ欲しい。そこに心が伴っていようとなかろうと。

 これからする行為は楽太にとって、想いを伝えるためのものであると同時に、自分の欲を満たすためのものでもあるのだ。





「・・・これ、どうやったら外れるんだ?」

 楽太は何度か深く口付けると、武流をうしろに押し倒した。床はカーペットも敷かれていないフローリングだったが、楽太にはそこまで頭が回らない。

 そして上着を脱がそうとしたのだが、楽太はきっちり締められているネクタイがなかなか外せなかったのだ。楽太に困ったように見られて、武流は自分でネクタイを外した。スルリとほどいたそれを無造作に脇に投げる。

 いつでもかかってこいとでも言いたげな武流の仕草に、楽太はワイシャツのボタンを外していった。

 少しずつ現れる肌は間違いなく男のもので、しなやかではあるが女のような柔らかさはない。しかし楽太はそれに確かな興奮を覚えていた。

 手で撫でるように触れながら、首筋や鎖骨の辺りに唇を落としていく。

 楽太は何度か女の人とこういうことをしたことがあった。いずれも相手は年上のキレイなお姉さんといったかんじの人で、彼女たちは確かに楽太に魅力的に映ったし、欲を誘った。

 だが、今 楽太が感じている情動は、そのときよりもずっと強かった。胸が、頭が、手が、体中が熱くて仕方ない。触れてその肌を感じるたびに、干上がるような感覚に襲われる。もっと、もっと欲しいと。

 楽太は上半身を探る手をとめて、ベルトに手を掛けた。そこで楽太は武流の様子を伺ったが、武流は相変わらず何を考えているのかわからない顔で楽太を見返しているだけだ。

 その様子に、楽太の内の炎は逆に勢いを増した。

 楽太は手早くベルトを外しチャックを下ろすと、微かに反応を示しているそれを取り出す。嫌悪感などまるでなく、楽太はさっそく手で扱き始めた。

 楽太も男なのでどこがいいかわかるから、そこを重点的にこするように撫でときに爪を立てる。武流は表情を変えず声も上げないが、息の仕方や目の動きが確かに感じていることを示す。

「ねえセンセイ、気持ちいい?」

 楽太はわかっていて尋ねた。返事など聞かなくても、武流のそれから出た昂ぶりの証がすでに楽太の手を濡らしている。

「オレも、センセイのこうしてるだけで、すごく興奮してる」

 楽太は手の動きはそのまま、いつもより幾分低い声で言った。掠れ気味のそれは、その熱を帯びた眼差しと共に何よりも楽太の想いを伝えている。武流が、欲しいのだと。

 そんな楽太に何か言おうとしたのか武流は口を開いたが、楽太の与える快感に声をつまらせる。

「ね、はやくイっちゃってよ。オレそんなに我慢強くないんだから」

 段々と余裕が失われいくのに気付いている楽太が、促すように手の動きを強める。抉るように先端の辺りを攻められ、武流は遂に耐え切れず楽太の手にその精をはき出した。

 



 荒い呼吸を繰り返す武流に多少の充足感を感じながらも、楽太はまだ満たされない欲求に従ってズボンを脱がしてしまおうとした。

「・・・あれ?」

 そこで楽太は何かに気付いたように、少し抜けた声を出す。

「センセイ、男同士の場合って、どこに入れるの?」

 この状況でそんなことを言う楽太に、息を整えていた武流は思わず軽く目を見開いた。

「・・・お前、そんなことも知らないであんな自信満々に・・・」

「だ、だって、あれは勢いだったし、オレ男としたことなんかないしっ」

 武流に呆れたような目線を送られて、楽太は言い訳にもならないことを言う。

「だから、教えてよセンセイ」

「・・・そりゃあ、入れれるところは一箇所しかないだろう」

 まるで勉強を教えてくれと頼むようにしかしそのときよりもずっと真剣に言われて、武流は少し遠い目をして答えた。

 その言葉に楽太はしばらく考えていたが、わかったのか顔をパッと上げる。

「そっか、そうだよな」

 そして何度か頷いて、途中にしていたズボンを脱がそうと手を掛けた。しかし、武流が楽太の手を押さえてそれをとめる。

「なんだよ、途中で後悔しないって言ったじゃん。もうオレこんなとこでとまれないよ?」

 力では敵うはずもなく、楽太は武流を恨めしそうに見た。

「・・・そうじゃなくて。わかった、から・・・」

「何が?」

 めずらしく歯切れの悪い武流の言葉に、楽太は悠長に話している気分ではなく急かす。

「だから、お前の気持ち。お前が、俺のこと・・・好きだっていう・・・」

「え? あぁ!」

 言われて楽太は、そういえば最初はそういう目的だったと思い出した。途中から行為自体が目的になっていたが、それよりまずそっちのほうが大事なことだと楽太は思い直す。

「本当に? わかってくれるの? 信じてくれるの!?」

「・・・信じるよ。疑って悪かった」

 武流は素直にそう言った。楽太が信じさせるためにとった行動は突拍子もなく思えたが、しかし結果的に武流は楽太の気持ちを思い知った。あんな目つきで見られて、あんな声で言われて、あんなふうに自分に対する欲を見せつけられて、信じられないわけがない。

「・・・よかった、やっとわかってくれたんだ」

 今度は逸らされない武流の目線の先で、楽太は思わず滲んだ涙を拭った。

「あ、でもわかったからって、これ以上はやめろって言うんじゃないだろうな!?」

 楽太は半分照れ隠しで、半分本気で言った。

「言わないから、とりあえず俺の話を聞いてくれるか?」

「話?」

「返事、とか」

 だから悠長に話なんてしてる気分じゃないんだって、と言おうとした楽太は武流のその言葉にうろたえる。

「へ、返事・・・。そ、そうだよな、聞かないといけないよな・・・」

 自分の想いをわかってもらうだけで満足していては駄目なのだ。そう思って楽太は少し逃げたくなる気持ちをなんとか抑えた。

「い、いいぞ。ハッキリ言ってくれ」

 覚悟は決めたとばかりに目をきつく閉じる楽太に、武流は少しばかり面白くない気分になってその鼻をつまんだ。

「いてっ! 何すんだっ」

 思わず目を開けた楽太に、武流は溜め息混じりに言う。

「お前は、俺がなんとも思ってないやつに、試すためとはいえあんなことさせると思うのか?」

「だってー・・・って、あれ? 何それ、ええと、オレのことなんとかは思ってるって・・・なんとか・・・?」

 言いながら混乱していく楽太の鼻を、武流は今度は優しく撫でた。

「簡単に言うと、俺もお前のこと好きだよ。お前と同じ意味で」

「・・・本当に?」

「本当に。信じられないか?」

 喜びそうになるのをなんとか抑えてるような妙な顔をする楽太を、武流は見上げてその手を頬に移動させながら言う。

「しっ、信じるよっ! オレはセンセイみたいに疑り深くないもん!」

「・・・それは悪かったって。簡単に信じて、やっぱり気のせいだったとかあとで言われるのが怖かったんだよ。お前と違って、複雑にできてんだ」

「どうせオレは」

 「単純だよ」と言おうとした楽太は、しかし途中で思わず言葉をとめる。

 武流が、手を今度は髪を撫でるように動かしながら、笑った。

 そして、自分に向けられる二度目の笑顔にぽーっとなっている楽太に、表情はそのままで告げる。

「その、俺と違って単純なところが、好きなんだ」

 襟足の辺りに添えられている手に引き寄せられてか、それとも自分からか、楽太は武流に口付けた。確かに応えがあるそれは、今までの一方的なキスとは違って、ひどく優しくもありそして激しくもあった。

 おかげで、楽太は忘れ掛けていた熱を思い出してしまう。

「ね、センセイ、続きとかしてもいい?」

 軽い調子で言おうと思って出した声はしかし妙に掠れてしまい、楽太は気まずげに少し体を離す。

 そんな楽太に、武流はいいよと両手を差し延べた。

 今度はちゃんと、体も、心も、受け入れる。そんなふうに――。





END(しかしオマケに続いたりする・・・→


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「Acceptability」は「認められるとか受け入れられるとか(受身じゃなくて可能)」そんなかんじ。

武流のをしてるときの楽太とか、ちょっと男らしいですね。(これでも)

楽太の男前度グラフ、これ以降は落ちる一方です。