#Interest 





「センセイ、はい、おべんとー」

 土曜日、いつものように武流の部屋に来て、楽太はうきうきとカバンから出したそれを机に置いた。重箱二段という立派なそのお弁当は、楽太の母親が用意してくれたそうだ。

「・・・お前、母親になんて言ってるんだ?」

 古風な風呂敷を解いて中身を確かめだす楽太に、武流は今更だがこれまで敢えて聞いていなかったことを聞いてみた。毎週のように外泊しているのだから、楽太は放任主義の親だと言っていたが、やはり心配に思っているだろうと思って。

 しかし、楽太はそんな武流の思いになど全く気付かず笑顔で返す。

「センセイのとこ行ってくるーって」

「・・・・・・・・・」

「それより、早く食べよーっ」

 武流のそんな考えも知らず楽太はさっさと食べ始める。その脳天気な顔に、武流はやはりその辺からは敢えて目を逸らしておくことにした。

「ね、おいしい?」

 武流が箸をつけると、楽太は自分で作ったわけではないのに楽しそうにそう聞いてくる。しかし確かにおいしいので武流は頷いて返してやった。すると、楽太は嬉しそうに笑う。

「思ってたんだけどさ、センセイが作るご飯と母さんが作るご飯って、同じような味がするんだよね」

「ああ、そういえば」

 お店の料理と違って家庭の味というものはその家の何かが滲み出ているのか何故か合わなかったり違和感を感じたりすることがある。だが全くそれがなく普通においしいと思えたということは、楽太の言った通り味がほとんど同じだからなのだろう。

「エヘヘー、嬉しいな」

「どうしてだ?」

 なんだかとても嬉しそうに笑っている楽太に、そこまで喜ぶ理由がわからず武流は聞き返した。

「だって、これって重要なことじゃん。ほら、お嫁さんの料理が口に合わなかったら結婚生活も大変だし。だから、オレとセンセイって、相性いいっていうか、これからも安泰ってかんじだねっ」

「・・・・・・」

 つっこむべきところがあった気がしたがしかしもう面倒で、武流は言い返す為ではなく食べる為に口を開けた。

「ねっ、てばっ!」

「ほら、ピーマンさりげなく残してないで、食べろよ」

 言い募ろうとする楽太をさえぎると、武流は楽太の手元で炒め物の中からキレイに分けられているピーマンを箸で指す。

「うっ」

 楽太はピーマンが、それから人参と茄子も、苦手なのだ。それを武流に知られてから、ことあるごとに楽太は食べろと言われるようになってしまった。

「・・・・・・セ、センセイが口移しで食べさせてくれるんだったら、食べよっかなー・・・」

 食べたくない楽太はどうにか逃れようと、そう言ってみる。これなら、食べなくてよくても嬉しいし、口移ししてくれても嬉しい。

「・・・じゃあ、してやるから、食え」

「えっ、してくれるのっ!? じゃ、食べる」

 どっちかいうと断られると思っていた楽太は嬉しくって武流に寄っていった。

「・・・仮にも苦手な食べ物なんだから、少しは躊躇えよ」

「だってー。ピーマン嫌いより、センセイ好き、の気持ちのほうがずーっと大きいんだもん」

「ピーマンと比べんな。ま、食べるんだな?」

 武流は少し呆れながら、箸でピーマンをつまむ。

「うん。あーん」

 楽太は武流に向かって口を大きく開く。その頭の足りなさそうな顔に、武流は溜め息をつきながらピーマンを自分の口へ運んだ。

 そして顔を近付けると、楽太は習慣で目を閉じる。だから武流はその大きく開いた口に、ふと気を変えて、箸から直接ピーマンを入れてやった。

「う゛っ!? センセっ!」

 約束違反を抗議しようとした楽太の口を、今度はしっかりと閉じられた武流の口が塞ぐ。やり場のなくなったそれを、楽太は仕方なく噛んで飲み込むしかなかった。

「・・・・・・んぐっ」

 なんとか嚥下すると武流はすぐに離れていき、楽太は中に残る苦ーい味に口をへの字に曲げながら武流を恨めしげに見上げる。

「ひどい・・・」

「ほら、食べようと思えば食べれるだろう」

 ちなみに楽太は人参と茄子もこんなふうに、うっかり食べさせられてしまったことがあった。

「そうだけどー・・・」

 機嫌が戻らない楽太は下を向いていじけだした。

 武流は、そんな楽太に苦笑しながら、もう一度近付く。頬に手を遣って顔を上向けさせられ、楽太はやっぱりつい癖で目を閉じて、降ってきた武流の唇を受け止めた。

「ピーマンを介してキスするなんて、俺は嫌だよ」

 口付けの合間に、武流が楽太の頭を撫でながら言う。きっと楽太を宥める為のセリフだろうが、しかしそこに嘘はきっとなくて、楽太はそれだけで嬉しくなった。

「うん、オレも」

 そう言って楽太が笑えば、武流も笑ってもう一度キスをくれる。

 楽太は生まれて初めて、ピーマンの存在に感謝した。





一応、END


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「Interest」は「興味、関心、趣味、趣向、重要(性)」とか。

ここで区切ってみたけど、続きます。このあと起きることを選択方式で。

三択だけど、実は全部あったことです。

ちなみに順は、「ア」見て、夜に「ホ」見て、次の日に「ラ」を見るってかんじ。

でも全部昼食中(後)に見たって設定で書いてます。


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「ねー、センセイ、ビデオ見よーよ」

 すっかり機嫌を直した楽太が、昼食を再開して玉子焼きを頬張りながら言った。武流はすぐうしろにあったレンタルビデオ屋の袋からビデオを三つ取り出す。そしてそれを、一つ選べとばかりに楽太のほうに向けた。

 学校帰りに借りてきた、透明なパッケージに入ったそのビデオは裏から見ると全くなんのビデオかわからない。その三つの取り合わせは、ラブロマンス、ホラー映画、そしてアダルトビデオだ。出来ればラブロマンス、と思いながら楽太は勘に頼ってえいっと真ん中のを抜き取った。





 楽太が選んだビデオは?



やっぱりラブロマンス   いやいやホラー映画   それともアダルトビデオ








サンプル。